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最高裁判所第一小法廷 平成3年(オ)1495号 判決

主文

原判決中上告人敗訴部分を破棄する。

前項の部分につき本件を広島高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人西田秀史、同西田美千代の上告理由について

一  原審の確定した事実関係は、次のとおりである。

1  被上告人岡山東伸繊維株式会社(以下「被上告会社」という。)は、販売店である訴外株式会社コーセン(以下「訴外会社」という。)から手作りソフト付きのコンピューター(以下「本件コンピューター」という。)を導入するにつき、昭和五九年九月一九日、リース業者である上告人との間でリース契約(以下「本件リース契約」という。)を締結した。

2  被上告会社は、そのころ、右ソフトが未完成であつて、本件コンピューターが納入されず、訴外会社の事務所に置かれたままであるにもかかわらず、訴外会社の資金繰りに協力するため、これが納入されたように装つて、その引渡しを受けた旨の受領書を上告人に交付した。そこで、上告人は、右同日、訴外会社に対して本件コンピューターの売買代金を支払つた。

3  被上告会社は、訴外会社から本件コンピューターの引渡しを受けないまま、上告人に対し、昭和五九年九月分以降同六一年九月分までの月々のリース料(毎月七日払い)を支払つたが、同年一〇月分以降のリース料については、リース物件の引渡しを受けていないことを理由にその支払を拒絶するに至つた。

4  他方、上告人は昭和六一年九月三〇日頃、訴外会社の経営不振のため必要があると主張して、被上告会社に無断で、訴外会社から本件コンピューターを引き揚げ、これを保管するに至つたが、同年一〇月二九日、被上告会社の右リース料の不払を理由に本件リース契約を解除する旨の意思表示をした。

二  上告人は、被上告会社及びその連帯保証人であるその余の被上告人らに対し、本件リース契約の解除を理由に残リース料に相当する五一四万五〇〇〇円の約定損害金及びこれに対する延滞リース料の支払猶予期間満了の日の翌日である昭和六一年一二月二日から支払済みまで約定の年一四・六パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めるところ、原審は、上告人が本件コンピューターを一方的に引き揚げ、被上告会社の使用不可能な状態を作出したのであるから、被上告会社としては、昭和六一年一〇月分以降のリース料の支払を拒絶することができ、前記解除は無効であるとして、上告人の請求を認容した第一審判決を取り消した上、上告人の右請求をいずれも棄却すべきものとした。

三  しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

1  前示事実関係、とりわけ本件リース目的物の種類・性質、本件リース契約締結に至る経緯等によると、本件リース契約はいわゆるファイナンス・リース契約であると解することができるところ、ファイナンス・リース契約は、物件の購入を希望するユーザーに代わつて、リース業者が販売業者から物件を購入のうえ、ユーザーに長期間これを使用させ、右購入代金に金利等の諸経費を加えたものをリース料として回収する制度であり、その実体はユーザーに対する金融上の便宜を付与するものであるから、リース料の支払債務は契約の締結と同時にその金額について発生し、ユーザーに対して月々のリース料の支払という方式により期限の利益を与えるものにすぎず、また、リース物件の使用とリース料の支払とは対価関係に立つものではないというべきである。したがつて、ユーザーによるリース物件の使用が不可能になつたとしても、これがリース業者の責めに帰すべき事由によるものではないときは、ユーザーにおいて月々のリース料の支払を免れるものでないと解すべきである。

2  前示事実関係によると、被上告会社は訴外会社から手作りソフト付きコンピューターの引渡しを受けた旨の受領書を上告人に交付したものの、実際には右引渡しを受けていないというのであるから、被上告会社は、少なくとも上告人との関係においては、自ら本件コンピューターを占有使用することなく、あえて訴外会社に保管させたものとして、自らこれを占有すべき本件リース契約上の義務に違反したものとみられてもやむを得ない立場にあるとみることができる。そして、本件コンピューターが訴外会社の下にあることを知つた上告人が訴外会社の経営不振を理由にこれを引き揚げたことには、無理からぬものがあるということができるから、その後、被上告会社において積極的にその引渡しを求めたのに、上告人がこれを拒絶したような事情でもあれば格別、そうでなければ、右引揚げの結果生じた被上告会社の本件コンピューターの使用不能の状態は、むしろ被上告会社の前記本件リース契約上の義務違反に起因するものであつて、上告人の責めに帰すべきものということはできない。

3  そうだとすれば、上告人が訴外会社の下から本件コンピューターを引き揚げたことのみから、上告人が被上告会社においてこれを使用できない状態を作出したものとして、被上告会社に昭和六一年一〇月分以降のリース料の支払義務はないとした原審の判断は、リース契約に関する法令の解釈適用を誤り、ひいては審理不尽、理由不備の違法があるものというべきであり、その違法が原判決中上告人敗訴部分に影響を及ぼすことは明らかである。これと同旨をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、以上に説示したところに従い更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。

四  よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大堀誠一 裁判官 味村 治 裁判官 小野幹雄 裁判官 三好 達 裁判官 大白 勝)

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